ブラッシング指導に先立つ補助方法
ブラッシングの不十分さ、不徹底さを改善するためには、側面から援助する補助方法の指導が必要である。
それは含嗽指導と呼吸指導である。含嗽指導
ブラッシングの重要性を十分理解させ、その完成をめざすための先行手段として、治療処置の最初に、それまで行ってきた含嗽の不合理性、不徹底さを改善する含嗽指導を行う。このことによって、患者自身の行う行為(療養)がいかに合目的的でなければならないかを知らせることができる。
指導担当者が実際に水を含み、水量の多寡、震動の強さ、音の大きさなどを示し、何度も練習させる。このような指導は、緊急、徹底いずれの処置の場合にも行われ、徹底処置に入った時期には、盲嚢からの排膿を助けるための、より注意を要する含嗽指導となる。
呼吸指導
治療中(歯牙の切削が行われる時など)、呼吸を止めている瞬間をとらえ、処置が続けられている間、途切れることなく腹式呼吸あるいは丹田呼吸を続けることをアシスタントが声をかけながら行わせる。
不用意に約1分を越える断息状態をたびたび見過ごすような場合、酸素不足のため心身の安静は失われ、不安と動揺が処置に危険を続発させることある。このような歯科受診の態度を改善する目的と、これを日常生活に定着させ治癒効果を高めるために、処置前、処置中に適切な呼吸法の指導を行う(参考:村木弘昌『釈尊の呼吸法 大安般守意径に学ぶ』柏樹社)。
的確な含漱法と呼吸法の日常的応用は、ブラッシングの効果を高めるのに役立つ。
十分にブラッシングをしたいとやる気になっているのに不十分、不徹底にならざるをえない諸条件を探り出し、その1つ1つについて患者本人が納得のゆく方法で排除できるよう援助する。家庭や職場で、十分にやれない理由はなにか。つまり、どこで躓いているのか知らなければならない。
その前にまず、ブラッシングそのことが、患者にとっては困難な技であるということを、肝に銘じておく。
前出の『Periodonta1 Therapy』 5th edition,chapter 21(J.C.Derbyshire 著)「患者の動機づけ」の項には、P.D.D.C.(Persona1 Dental Disease Control)計画に内在するむずかしさという項目のなかで、
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(4)口腔の身体的形態によること
(5)プラークの物性的特徴によること
(6)効果のない方法が通用していること
(7)時間がかかりすぎること
など、ブラッシングそのことのむずかしさをあげている。
(4)口腔の身体的形態:
患者が熱心に歯を清潔にしようとしても、口腔の身体的構造が、またその操作を困難にしている。
もし、設計技師がとりわけ浄化しにくいものという条件づきのものをデザイン、設計してみようということになったら、間違っても自動車の風防ガラスのように浄化しやすいものを設計するはずがない。もちろん、裂け目や突起があったり、平らでない面の多い複雑な構造のものを製作するはずである。もし浄化しにくいという条件がこれでもまだ不十分だというのなら、全部品を1ヵ所だけ口のあいた、あまり照明の入らない箱の中にしっかりと固定すればよい。
口腔はまさにその性質上、物理的に洗浄困難な器官を内臓した、開口部の小さい暗箱そのものということになる。(5)プラークの物性的特徴:
口腔の物性的特徴と、それゆえに生ずる難しさを考慮すれば、プラークにも同じように困難な物性的特徴があるという問題につきあたる。①プラークは、口腔のなかでもっとも手の届きにくい部分に集積する。②プラークは光がよく当っていてさえもよくは見えない。③プラークは、歯の表面にきわめてしつこくへばりついている。④プラークはたえず形成されている。⑤プラークは日常の食事中に含まれている蔗糖を利用してできる。
西洋文化における食物には、蔗糖がたっぷり含まれている。したがって,プラークを減らすためにはいくぶん食事を改善することが必要である。(6)効果のない方法:
現在、口腔衛生のために行われている方法は、機械的なものが多い。歯ブラシ、フロス、スティムレーター、歯をすり減らす練り歯磨などは、すべてプラークを除去する上で機械的に作用するものである。機械的な方法は、口腔のように暗くて接近しにくい迷宮のようなところにこびりついて離れないプラークを洗浄するには、一番望ましくない方法といえる。しかし、化学的または電子的方法のような、より効果的であろうと考えられる方法は、現在ではまだ使用上安全とはいえないので、やむなく機械的方法が広く行われているのである。(7)時間がかかりすぎること:
口腔やプラークの物性的特徴や、やむなく行われている効率のよくない方法のために、口腔を正しく洗浄するにはかなりの長時間を必要とする………と述べられている。